東京大学 工学系研究科 人工物工学研究センター

ZEISS METROTOM 1500 225kV G1 活用事例

自動車やバイク、航空機メーカーから依頼された機械部品の試作品の精度解析や、自身の研究にZEISS METROTOM 1500 225kV G1をフル活用している東京大学 工学系研究科 人工物工学研究センター 准教授 大竹 豊氏に、導入経緯と効果について詳しく伺った。

表1 学内の撮像依頼の例

東京大学内の撮像依頼例

大竹氏の活動

自動車や航空機などに使われる機械部品の精度を解析

大竹氏が会津大学院博士課程のときから現在まで携わっているのが3Dスキャンのデータ処理。東京大学に赴任してからX線CT装置に出会い、今は「ZEISS METROTOM 1500 225kV G1」(以降METROTOM 1500)を活用して、機械部品を計測する研究に従事している。「もともとコンピューターグラフィックスに興味があって、学生時代は主に綺麗な3Dモデルをつくる研究をしていました。それから3Dスキャンのデータ処理に面白さを感じて、今では『測ること』を仕事にしています」(大竹氏)。
大竹氏が行っている活動は主に3つある。1つは自動車やバイク、航空機の分野の名立たる企業から依頼を受け、製品を構成する機械部品の精度を解析すること。「企業から3D-CADの設計をもとに試作した機械部品を受け取り、METROTOM 1500で3Dデータ化を行って、許容範囲の精度で製造できているかを解析。精度に問題があれば、その部分をフィードバックします」(大竹氏)。
自動車や航空機は安全の確保が大前提で、当然ながら機械部品への精度要求は高い。機械部品の精度解析は製品の完成度にも大きく関わるだけに、大竹氏は重責を背負う。言い換えれば、それだけ企業は「大竹氏の解析精度に高い信頼を寄せている」と言える。
2つ目は自身の基礎研究だ。付き合いのある企業から製品を構成する一部の部品を購入し、その部品の精度解析データを収集していく。さまざまな部品のデータを数多く収集することで、解析精度の向上を目指している。
3つ目は工学部や農学部など、学内の各所から依頼される精度解析。依頼内容は「表1 学内の撮像依頼の例」の通り、多岐に渡るだけに、それに対応するMETROTOM 1500の性能も窺い知ることができる。

3Dスキャナーの課題&X線CT装置との出会い

内部構造までスキャンできるX線CT装置に衝撃を受ける

東京大学でX線CT装置に出会う前まで大竹氏は、対象物の表面にレーザー光などを照射しながら3次元の座標データを取得し、対象物の凹凸を感知して3Dデータを生成する3Dスキャナーしか扱ったことがなかった。「3Dスキャナーの場合、基本的に光が当ったところしか計測できません。光が当たらない内部などは穴になってしまうため、対象物の位置を変えて何度もスキャンし、パラメータを変えて穴を埋めていく作業を行う必要がありました。ところが、X線CT装置はその必要がありません。X線の照射によって、内部構造まで3Dデータ化することができます。とても衝撃的でした。今までの穴埋め作業は何だったのかと思いましたね」(大竹氏)。
その後、X線CT装置に魅了された大竹氏はメーカーからデモ機を借りるなどして、さまざまなX線CT装置に触れていく。ときには、メーカーのショールームに出向くこともあったという。「研究をするにはデータがないと始まりません。そのデータを得るにはX線CT装置が最適だと考え、さまざまなメーカーの製品に触れようと思いました。当時はX線CT装置の創成期でしたが、多くの製品に触れたおかげで、メーカーごとの特徴や特性などは理解できました」(大竹氏)。

METROTOM使用の様子

X線CT装置の選定

ZEISS METROTOM 1500は精度保証がある数少ない製品

そうしたなか、2015年には工学系研究科の鈴木教授が主体となって新たなX線CT装置を導入することが決まった。もちろん、大竹氏の意見も選定基準に加えられている。このとき、導入されたのがMETROTOM 1500。選定基準となった以下の2つを満たしていたのがMETROTOM 1500だった。

図1 寸法計測用CT装置の精度保証

計測用X線CT装置の精度保証

球間の距離をCMM計測と比較

図2 形状の寸法精度

形状の寸法精度

X線が十分に透過できるワークであれば、 表面位置の誤差は10 μm以内

<精度保証>
設計段階における機械部品の精度を解析するうえで、X線CT装置自体の精度が高くなければ、そもそもスタートラインに立てない。その点、METROTOM 1500は、ドイツでX線CTの寸法計測における保証精度の規格が制定された2007年に、いち早くその規格を満たして市場に投入されたモデル。デモ機としてMETROTOM 800 130kVを借用した際、高い精度と再現性は確認しており、METROTOM 1500 225kV導入にあたって精度への不安はなかった。
補足をすると、X線CT装置では三次元測定機と同様、基準器が存在する。この基準器先端はルビー球となっている。ドイツ技術審査認定機関(DAkkS) に認証されたカールツァイス(ドイツ)計測部門が、基準器のルビー球位置を精度保証された三次元測定機にて測定し、その際の各球間距離の測定値がマスタ値となる。METROTOMによって基準器をスキャニングし、カールツァイスの汎用測定ソフトウェアCALYPSOを用いてスキャンデータを測定すれば、マスタ値に対し精度保証値以内に収まっているかどうか確認することができる。
今回、大竹氏のご好意でMETROTOM 1500を使用し、考えられうるすべての球間距離を測定した結果が図1。三次元測定機を用いた計測結果からの誤差はプラスマイナス2 μmの幅に収まっていた。
また、大竹氏自ら測定を実施した形状の寸法精度結果についてもご紹介する。図2はアルミ製の5段ステップシリンダをMETROTOM 1500でスキャンしたデータをもとに、三次元測定機を用いた計測結果からの偏差をプロットしたものである。
結果としては「X線が十分に透過できるワークであれば、表面位置の誤差は10 μm以内」(大竹氏)とのことで、計測機として活用するには十分なレベルであることが分かった。

<管電圧225kV>
METROTOM 1500は大きな対象物の解析が可能なモデル(直径305×高さ260 mmまでが測定範囲。最新機種のMETROTOM 1500 G3であれば直径330×高さ870 mmまたは直径615×高さ800 mmが測定範囲)だが、大竹氏が注目したのは管電圧225kVの部分。「機械部品は細かいものが多いため、小さな対象物の精度も重要です。確かに450kVのような高電圧のX線CT装置はより厚みがある機械部品のデータを取得できますが、細かい部分はぼやけることがあります。225kVのMETROTOM 1500ならぼやける心配がなく、しかも測定できる対象物の最大サイズも我々の要求を満たしていました」(大竹氏)。
最終的には入札となり、価格面でアドバンテージがあったMETROTOM 1500 G1を選定。「予算がありますから、やはり価格は大事。カールツァイスには頑張っていただきました。大変感謝しています」(大竹氏)。

※ 本稿における測定精度については、東京大学様におけるご研究結果が含まれております。メーカー保証値につきましてはカールツァイスまでお問い合わせください。

METROTOM 1500への評価

ハードウェア性能および完成度が高くブラックボックスがない

X線CT装置のスキャンには以下3つの工程がある(右図)。
① 回転台にワークを設置し、一回転分のX線投影像列を得る
② 投影像列を入力としてCT再構成計算を行い、CTボリューム(二次元の断面が像列)を得る
③ CTボリューム中の形状表面を抽出し、三角形メッシュで表現された形状データを得る
「③の形状データまでくれば、3DスキャナーもX線CT装置も一緒。我々の研究は①と②に寄っていて、ここでどれだけ精度の高い断面データをつくれるかが機械部品の精度を解析する鍵になります」(大竹氏)。
METROTOM 1500を使い始めて5年が経過した現在、ワークごとのスキャンパラメータの設定は、ある程度あたりはつくようになっているという。一般的なスキャン設定を例に挙げると、低解像度の試しスキャンを数回行って、ベースの条件が固まってきたら少しずつパラメータを変えて高解像度のスキャンを行うといった具合だ。
「研究の分野なので、一般よりはスキャニングに時間をかけていると思います。これが可能なのは、METROTOM 1500の完成度が高いからにほかなりません。精度保証がなされている通り、パラメータが一緒なら、いつも同じデータが出てくるので安定して使うことができます。あくまでMETROTOM 15001自体の性能重視、ソフトウェアで余計なことをしていないのも良いと思います。ブラックボックスがなく、非常にクリアなX線CT装置ですね。研究する立場としては非常に相性が良いと感じています」(大竹氏)。

図3 CT撮像から高精度3次元形状

CT撮像から高精度3次元形状を作成

現状では中間データの確認が重要

図4 アセンブリ品CTの部品形状抽出ソフト(デモ)

アセンブリ品CTの部品形状抽出ソフト

SegMo (Segmentation with multi-level Morse-complex)
ゾディアック社との共同開発による詳細度可変型3D塗り絵システム

今後の展開

解析に役立つ自作アプリケーションソフト開発を推進

大竹氏が「今後さらに注力していきたい」と語るのは、METROTOM 1500の3Dデータを高精度に解析できる設計支援ソフトの開発。アセンブリ品の3Dデータから部品を切り出せる自作の設計支援ソフトは開発済みで、多くの企業から期待が寄せられている。
そもそもアセンブリ品から部品を取り出す技術は非常に難しい。形はもちろん、素材が異なればX線の透過率も異なるため、どこまでが同じ部品で、どこからが違う部品なのかを判別するのが困難を極める。しかし「我々が開発したこの設計支援ソフトを使えば、部品ごとに色分けして切り出すことができます。これにより、例えばエンジンであれば、歯車同士の噛み合わせ、部品間の隙間、想定外の摩擦などを詳細に調べることが可能です。我々としてはアセンブリ品を解析できる強みを生かして、この設計支援ソフトをX線CT装置のキラーアプリケーションに位置付けたいですね」(大竹氏)

今後の期待

信頼を置くカールツァイスのサポート力

METROTOM 1500の性能はもちろん、カールツァイスのサポートにも満足していると語る大竹氏。「十分よくやっていただけています。何かあればすぐに駆け付け、親身になって話を聞いてくれます。さらにメンテナンスは4カ月に1回(年3回)と、本当にサポートが充実していると感じています。また、一般的にX線CT装置はトラブルが多いと聞きますが、当学のMETROTOM 1500はほとんどトラブルがありません。高精度で信頼性の高いMETROTOM 1500なら大学の研究分野はもちろん、官民問わず、検査施設や企業などの非破壊検査で大活躍するのではないでしょうか」(大竹氏)。

大竹 豊氏について

東京大学 工学系研究科 人工物工学研究センター 准教授
1997年会津大学卒業、2002年同大学院博士課程修了、博士(コンピュータ理工学)。
同年マックスプランク情報科学研究所博士研究員、2004年理化学研究所を経て、2007年に東京大学講師として赴任。
2011年より現職。3Dスキャン形状データの高精度化とそのエンジニアリング応用に関する研究に従事。

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