ZEISS BEYOND TALKS

未来のために、分子レベルの探査

RWTH Aachen Universityの材料科学者、Joachim Mayer教授のインタビュー


現代の探査は宇宙に向かうことだけではありません。分子レベルでの材料の研究も現代の探査だと言えます。Joachim Mayer教授は、この分野の第一人者です。アーヘン工科大学およびErnst Ruska-Centre for Microscopy and Spectroscopyの材料科学者である同教授は、私たちはニューロモルフィック(神経形態学的)コンピューティングの時代に入ろうとしていると語っています。

175年にわたりZEISSの社員は、「どうやって想像の限界に挑戦するのか?」と問いかけてきました。この問いに答えるため、ZEISSは世界中の優れたリーダーや著名人を「ZEISS Beyond Talks」シリーズに招き、仕事、ビジョン、情熱、そしてこの世界を前に進めてく上で影響のある課題について語っていただいています。

ZEISS Beyond Talks

テクノロジーの実現因子としての材料についてJoachim Mayer教授が語ります*

材料科学という分野について何を知っておく必要がありますか?

材料とはテクノロジーの実現因子です。新しい種類の自動車、飛行機、再生可能エネルギーのデバイスなどを作りたいと思ったら、現在使用されているものよりも優れた特性を持つ新しい材料が必要になります。そのような材料を開発することが、材料科学者である私たちの仕事です。

私たちの仕事の1つは、材料のライフサイクル全体、つまり、使っている間に材料がどのように経年変化し、故障の原因となる欠陥が生じるのか、といった点を検討することです。たとえば飛行機の場合なら、材料の不備は一切排除したいものです。材料科学者は、故障しない材料の開発を目指しています。

そのためには、材料の微細構造に取り組む必要があります。材料の内部構造を特徴づけ、開発することが重要です。そのために私たちは、材料を100万倍にまで拡大できる顕微鏡を利用しています。

一般的に知られている倍率とは随分違いますが、例を挙げていただけますか?

はい。では、このように考えると分かりやすいかもしれません。

私たちが使っている倍率が100万倍の電子顕微鏡では、人間の髪1本が幅60メートルにまで拡大されることになります。これは、サッカーのフィールドの幅と同じです。

このレベルにまで拡大すると、ひとつひとつの原子まで見ることができます。20年前に電子顕微鏡が発明されるまでは、原子を見ることは不可能でした。

© Forschungszentrum Juelich / Tricklabor
© Forschungszentrum Juelich / Tricklabor

Joachim Mayer教授 materials scientist

私たちの顕微鏡は材料を100万倍、つまり髪1本が60メートルの幅に見えるまで拡大できます。

この記事をシェアする


この研究はどのような分野に応用されていますか?

現在、材料の研究とシステムエンジニアリングにおいては、再生可能エネルギーが大きなトピックとなっています。これは社会にとって今後数十年間の大きな課題です。

化石燃料を使った発電から、風力や太陽光といった豊富なエネルギー源へシフトしていかなければなりません。たとえばこの数年の間にドイツでは、再生可能エネルギーによる発電量が従来の発電方法を超える損益分岐点に達しました。そういった意味では非常に順調だと言えます。しかし、今すぐ必要なのは、このエネルギーをさまざまな形で貯蔵し、必要なときに必要な場所で使用できるようにする方法です。

今後数年のうちに、エネルギーの消費と貯蔵に関してどのようなことが起こると考えられますか?

世界的な電力消費量に目を向けると、私たちが消費する電力の20%がコンピューターやサーバーの運用に費やされるという状況が目の前に迫りつつあります。ここで、コンピューターをよりエネルギー効率の高いものとする新たな方法を見つけたとすれば、そのインパクトがどれほどのものかお分かりいただけると思います。それは、世界のエネルギー問題の解決に向かう大きな貢献となるでしょう。低消費電力コンピューターの時代は始まったばかりです。

現在、一般的なストレージデバイスのほとんどがリチウムイオンバッテリーですが、 地球のリチウム埋蔵量には限りがあるという問題があります。そのため、リチウムの値段は高騰しています。

私は、水素が何らかの解決策になると考えています。水素は私たちが知る最も小さな元素であり、電子を必要とせずにあらゆる金属に拡散させることができます。その特性と可能性をすべて損なわずに水素を扱うということは、現代の最も興味深い課題の1つです。


Joachim Mayer教授 materials scientist

私たちが消費する電力の20%がコンピューターやサーバーの運用に費やされるという状況が目の前に迫りつつあります。


コンピューティングについてですが、高速化やメモリ容量の増加はこれからも続いていくと思いますか?

その質問に答えるには、ムーアの法則に目を向ける必要があります。

ゴードン ムーアは、計算速度とコンピューターのCPUのトランジスタ数が1年半から2年ごとに倍増すると予測しました。データをグラフ化してみると、過去60年間にわたり彼の説が実に正しかったことが分かります。このように、ムーアの法則は、これまでコンピューターの世界がどのように発展してきたかを示す素晴らしい指針となっています。

では今後はどうなっていくでしょうか?

コンピューティングの新たな時代に向けた材料に取り組むのは、私たち材料科学者の仕事です。

この点について考えてみましょう。ノートPCからスーパーコンピューターまで、コンピューター内部の動作原理は基本的には60年間変わっていません。メモリとデータストレージがあり、その両方がシリコンのマイクロチップに変換され、CPUで処理されます。

現在、材料科学者が取り組んでいる分野の1つとして、データの保存、処理、レンダリングを1つのソース、つまり1つのチップで実行するデバイスの開発が挙げられます。これをニューロモルフィック(神経形態学的)コンピューティングと呼びます。これは、材料開発において最もダイナミックな分野の1つです。

材料は何ですか?

ニューロモルフィックコンピューティングで最も興味深いのは、酸化物を使った研究です。酸化チタンをはじめとする酸化物は、新しいシリコンです。これを採用することで、エネルギー消費量が少なくとも現在のスーパーコンピューターの10分の1に抑えられます。

今後数十年は、コンピューターにとって非常に面白い時代となるでしょう。必要に応じてどこでも利用できるくらい小型のコンピューターが実現すると思います。材料の開発のおかげで、私たちは特定のタスクの実行に特化した情報技術システムの時代に入ろうとしています。

© Forschungszentrum Juelich / Tricklabor
© Forschungszentrum Juelich / Tricklabor
© Forschungszentrum Juelich / Tricklabor
人工知能の進歩に関してどうお考えですか?

人間とコンピューターの最初の対戦はチェスでした。実はチェスは最終結果を計算できるため、人間はもうコンピューターに勝てません。

では、コンピューターはどこまで知的に発達するのでしょう?人間が進化によって能力を獲得してきた分野でも人間を上回るでしょうか?

私のビジョンは危険かもしれません。しかし、人間は確実にそのポイントに近づいており、コンピューター技術は今後20~30年のうちにその次元に到達できると思います。


Joachim Mayer教授 materials scientist

ニューロモルフィック(神経形態学的)コンピューティングは、材料開発において最もダイナミックな分野の1つです。


Ernst Ruska-Centre for Microscopy and Spectroscopy with Electrons(ER-C-2)は、電子光学研究の分野において世界有数の施設です。ER-C-2は、特にエネルギーシステムに注目し、環境発電とそのエネルギーの変換、貯蔵を原子レベルで理解することを目指しています。

アーヘン工科大学(Rheinisch-Westfälische Technische Hochschule Aachen)は、ドイツ、アーヘンにある公立の研究大学です。

メイキング


この記事をシェアする


「ZEISS Beyond Talks」をもっと見る